Ｚファイルを狙え
〈このゲームの読み方〉 最初は次のシーンから読み始めるが、そのあとは「次はどのシーンへ」という 指示に従って読む。指示が１つ（行き先が１つ）だけのこともあれば、２つ以上の こともある。 指示が２つ以上の場合、そのうち１つを選んで進む。カンに頼るしかないケースも あるが、「正しい選択をするためのヒントがそれ以前のシーンに隠されている」場合 もある。 なお、行き先が複数でも、それ以前の選択によって天下り的に決まることがある。 この種のゲームには、サイコロ／メモ／計算ｅｔｃを必要とするものが多い。 だがここでは、それらが一切不要な方式をとった。つまり、ごく普通の記事・文章 を読む感覚で楽しめるはずだ。 では、スタート！
「ちょっと換気するか」 打ち合わせが一段落して、あなたは言った。室内にはたばこの煙が充満している。 「嫌煙権」ということばも、このオフィスには無縁なのだ。あなたを含めて５人のス タッフが、それぞれの灰皿を吸い殻でいっぱいにしていた。 ５人のスタッフのリーダー田坂典正が、あなたのことばに反応した。「そうしよう。 その前に資料を引き出しに入れて……」 他の４人は、「あいかわらず神経質だなあ」と内心思いつつ、田坂のことばにした がう。 机の上から書類が一掃されたのを確かめて、あなたはブラインドを上げ窓を開ける。 ４月の午後の光と風が流れ込んだ。 あなたの名は光永貴之、広告代理店東洋エージェンシーの社員である。２か月ほど 前札幌から転勤し、本社の通称Ｚチームの一員となった。 東洋エージェンシーの本社ビルは東京・千代田区麹町にあり、その３階Ｚチームの 部屋から見おろすと、窓の下には、新宿通りが東西に走っている。右つまり東は、す ぐに皇居・半蔵門である。左つまり西は、四ツ谷を経て新宿駅南口へ、そこから甲州 街道に入って杉並・調布方面へと伸びる。 あなたは窓から首を出し、深呼吸した。たばこ数十本分の煙に比較すると、排気ガ ス混じりの空気すら新鮮でおいしい。 しばらくそうしたあと、あなたは席に戻った。入れ替わりに、プランナーの福島が 窓際に立つ。デザイナーの浜田とコピーライターの根岸がは何やら雑談している。 あなたを含めた５人は、男性化粧品会社マーキュリーが乗り出す新規事業の最初の 製品を担当していた。製品の頭文字がＺなので、一連のＰＲ計画はＺプロジェクト、 担当するメンバーはＺチームと暗号名？でよばれている。 もっともあなたは、よく言えば連絡・調整役、悪く言えば雑用係的な存在であった。 外線直通電話のベルが鳴り、雑用係のあなたが受話器をとった。
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