あなたが電話をとるのを見て、リーダーの田坂はすばやく窓をしめブラインドを降 ろす。 彼は、このプロジェクトの秘密を守ることに、極度の神経を使っていた。窓をいち いちしめることもその1つで、「机の上の秘密書類を双眼鏡などで除かれてはまず い」「声が外にもれてはいけない」との考えに基づいていた。 あなたも、田坂に影響され、以前よりこころもち小さな声で電話に出るようになっ ていた。 「はい、東洋エージェンシーです」 「……Zチームだな」 男の低い声である。この直通番号を知る者はかなり限られているが、聞き覚えのな い声だ。 「そうですが……どちら様ですか」 「黙って、今から私が言うことをメモしろ」 「?」 「私は、そこで進んでいるプロジェクトの内容を知っている。秘密を公表されたくな ければ、あさって25日までに、一千万円用意せよ」 あなたが何か言いかけたのを無視し、相手はしゃべりはじめた。何がなんだかわか らないまま、ともかくメモをする。 「札束は白い紙で包め。紙幣が通し番号ではだめだぞ。それを、25日午後5時、甲州 街道と環八通りの交差点まで持ってこい。バイクに乗り、白いヘルメットに黄色のT シャツで来るんだ。交差点には水色のライトバンが駐車している。運転席の窓が開け てあるから、札束の包みをそこから投げ込み、すぐ走り去れ。要求は以上だ。OKな ら、きょうの営業時間のうちに、受付の女性の胸に造花をつけろ」 電話が切れた。 あなたは、メモを手にして考える。内容はあきらかに恐喝だが、本気だろうか。何 かの冗談かいたずらではないだろうか。 本気かもしれないと思う いたずらだと思う