1億ドルの記憶 プロ作家・プロゲームデザイナーが贈るネットゲーム
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インタラクティブノベル(R)No.3
1億ドルの記憶
198X年、返還を控えた香港と東京を舞台に、巨額マネーをめぐって陰謀が渦巻く。
記憶喪失のままそれに巻き込まれたのは、きみだ。
待ち受けるのは死か、1億ドルか。
プロ作家・プロゲームデザイナーが贈るネットゲーム。
きみの価値観によってベストエンディングが異なるマルチシナリオ。
きみは白い風の中にいた。前後・左右・上下に、甘美な白い空間がただよっている。い
や、そうではない、ただよっているのはきみの方だ。きみの身体も意識も、無限の白に包
まれていた。
ホワイトアウト……
極地で霧やもやが出ると、視野一面がまっ白になり、方向や空間の感覚がまったくなく
なってしまう。それをホワイトアウトとよぶ。いまのきみの状態は、それに似ていた。
周囲ばかりではない。きみ自身の内側も白が満ちていた。生まれたばかりの赤ん坊の記
憶のように、最初の一筆を待つキャンバスのように、きみの心は真空の白さだった。
自分は起きているのか眠っているのか、生きているのか死んでいるのか、それすらもあ
やふやなまま時が流れた。
ふと──
きみを包む白さに濃淡が生じてきた。霧が晴れていくように、まず灰色と黒が、そして
ブルーやクリーム色が現われてきた。色はやがて輪郭を、さらに形をとりはじめる。きみ
を包んでいた白い風はいつのまにかやみ、きみを支えていた白い空間もただのベッドに変
わっていた。
どうやら眠っていたらしい。気を失っていたのかもしれない。ともかく今、きみは目ざ
めた。
そこは4m四方ほどの洋室だった。きみはベッドから上半身を起こし、室内をみまわし
た。目の前の壁に風景画がかかっている。背後にはドアがある。ドアから見て右奥のすみ
に小さな机、その上にはかびんが置かれている。2〜3本の花がさしてあるが、枯れ始め
ていた。
部屋に窓はない。照明もOFFになっている。にもかかわらず、明るい。理由はすぐ分
かった。天窓があるのだ。
しばらくぼんやりしていると、天窓から差し込む太陽光が少しずつ動いていく。その動
きから、きみは方角が分かった。ドアは東の壁にあり、机とかびんは北西のすみ、絵は西
の壁だった。ベッドは南の壁につけて東西方向に置かれ、きみは東枕で横たわっていたの
だ。
ベッドの脇に粗末なイスがあり、その背もたれにネクタイとジャケットが無造作にかか
っている。きみのものらしい。
ともあれ、見覚えのない部屋だった。
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