世の中解せないことばかり ・・・月刊「極楽Windows」(ソフトバンク)
創刊号(1996年10月号)より連載
(C)雅 孝司1996 禁・無断転載 歓迎・事前相談転載
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第2回 キーボードの悲劇、いや喜劇...披露宴は大騒ぎ
パソコン雑誌で「キーボード」といえば、「ア・イ・ウ……が書いてある、アレ」とだ
れもが思うだろう。ところがどっこい、鍵盤楽器の話である。
ぼくは、こう見えても(おっと、読者には見えないか)柄にもなく、電子オルガンをた
しなむ。某メーカー系電子オルガンスクールで、グループレッスンを3〜4年、個人レッ
スンを1年ほど受けた。
当時、友人知人がつぎつぎと結婚する時期でもあった。
そこでぼくは、招かれた披露宴席上、電子オルガンで2時間以上にわたるBGM演奏を
する−−ということを何回かやらせてもらった。(じつは「弾かせろ。さもないと出席し
てやらないぞ」とおどした)
通常の礼服ではミスマッチなので、専用の衣裳、ライトブルーのスーツまで買った。
だが、電子オルガンプレーヤーとしての実力がそもそもなかったので、さまざまな悲劇
にあうことにもなった。その一部を小説ふうに書いてみよう。
* * *
「本日は、残暑もゆるみ秋晴れの、風もさわやかな、文字通りけっこうなお日柄で……」
司会者のあいさつも上の空で、孝司はまだ迷っていた。ワーグナーにするかメンデルス
ゾーンにするか……
新郎・新婦の入場、つまりとびらが開く瞬間にウェディングマーチは始まり、2人の着
席とともに曲もぴたりと終わらなければならない。フェイドアウトは、忌みことば同様え
んぎの悪いものとされ、ゆるされない。
そのためには、オートリズムを用いず、2人の動きをよく見ながら、微妙にテンポ調整
をしなければならない。
このテクニックは、本来、楽譜なしで弾けるぐらいに暗譜していてこそ使えるものだ。
そうでないと、「右目で2人の動きを追いながら、左目で楽譜を見る」という技を強いら
れる。
孝司が、2つのウェディングマーチのどちらかを暗譜していれば、ためらわず−−いや、
選択の余地なく−−そちらに決めただろう。だが、彼はどちらも暗譜していなかった。
決断をうながすように、日ざしが鍵盤に直射した。孝司は何の理由も根拠もなく、ワー
グナーの譜面をつかみ、セットした。
「お待たせしました。新郎新婦の入場です。みなさま、盛大な拍手でお迎えください」
とびらが開いた、孝司の手が鍵盤に舞った−−かと見えたその瞬間、さわやかな!?風
が会場を通り過ぎた。ワーグナーの譜面を連れて……
* * *
数か月後……孝司は余裕の表情で電子オルガンに向かっていた。
ねんのため画びょう・セロハンテープ・重しなどを用意してきたが、どうやらきょうは、
譜面が風に飛ばされる心配はなさそうだ。窓には、開演前からすでに、厚手のカーテンが
ひかれていた。
宴は順調に進み、2人のお色直しと再入場の時刻になった。孝司は「愛の讃歌」の譜面
をセットした。例によって暗譜はしていない。
司会者が「では、新郎新婦の再入場、そしてみなさまにキャンドルサービスを行ないま
す」と告げる。
とびらが開いた、孝司の手が鍵盤に舞った−−かと見えたその瞬間、場内の明かりはす
べて消され、「愛の讃歌」の譜面は闇に沈んだ……
* * *
ほかにも、男性司会者との打合せ(初顔合わせ)で「オルガン奏者というから若い女性
だと思ったのに……」とがっかりされたとか、悲劇いや喜劇にはことかかないのだが、ひ
とまずここまで。
それより何より、BGM演奏でいちばんの悲劇は、目の前に豪華な料理があるのに、飲
み食いが一切できないことである。しかも、ご祝儀は他の出席者と同様に払わなければな
らない。形式上は、演奏のために来ているプロのプレイヤーではなく、友人として出席し
ているのだから。
みずから望んだ(「弾かせろ」とおどした!)こととはいえ、お預けをくらった料理の
数々をぼくはいまだに忘れない。
こうなったら、ぼく自身が披露宴をやってご祝儀を集め、少しでも元を取るしかない?
(でもそれには相手が……)
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